
“まだ大丈夫”が判断を遅らせる──雷から学ぶ、防災の行動心理
空が暗くなり、遠くで雷鳴が響く。
スマートフォンに雷注意報が届き、気象庁の「雷ナウキャスト」でも自分の地域に雷雲が近づいていることが確認できる。
それでも、多くの人はその場から動かずに様子を見てしまいます。
情報はあるのに、なぜ行動できないのか?
そこには、人間の本能的な判断のクセが影響しています。
目次[非表示]
「反応しすぎ」は、本当に悪いこと?
火災報知器が火事でないのに鳴ると、私たちは「誤報だ」と感じます。
けれどその警報は、“万が一”を逃さないための感度設定によるもので、意図された機能でもあります。
この考え方を人間の行動に応用したのが、進化医学者ランドルフ・ネッセ氏が提唱した「スモーク・ディテクター原理」です。
本当の危険を見逃さないために、少し過剰な反応をしておく方が合理的である。
これはまさに、防災の現場でも通じる原則です。
“反応しすぎ”は、過ちではなく命を守る設計かもしれないのです。
それでも私たちは「動かない」
理屈では理解できても、私たちはついこう考えてしまいます。
- 「周りも避難していない」
- 「前も結局、何も起きなかった」
- 「今避難したら、大げさだと思われるかも」
これらはすべて、集団同調バイアスや正常性バイアス といった心理の作用です。
本来は「鳴るべき警報」が、頭の中でかき消されてしまう。
この“警報を無視する脳の仕組み”こそ、判断の遅れの原因です。
避難所でも起きる、同じ構図
こうした心理の壁は、避難所の開設や訓練の現場でも現れます。
- 「まだ必要ないのでは」と避難が遅れる
- 担当者が少数に偏っていて連携がとれない
- 手順はあるが、“その時”に動けない
マニュアルや情報があっても、“反応するための仕組み”がなければ行動にはつながらないのです
行動を引き出す、防災の“設計”
私たちは、音に驚いて身を守るように、
「反応できる仕組み」があってはじめて、適切な判断と行動を取ることができます。
そのためには、
- 手元にすぐ確認できるガイド
- やるべきことが一目でわかる仕組み
- 声をかける相手や役割の可視化
といった“迷いを減らす設計”が必要です。
N-HOPS──避難所を“動かせる状態”にするツール
能美防災が開発した避難所支援ソリューション「N-HOPS」は、
災害発生時に避難所をすばやく、かつ住民主体で立ち上げるためのデジタル支援キットです。
- スマホやタブレット上で役割分担表を即表示
- 現場で判断できるチェックリスト
- 担当者でなくても扱えるシンプルな操作性
情報を“使えるかたち”で届け、行動を引き出す設計。
N-HOPSは、避難所が抱える「人が動けない」課題に、構造的なアプローチで応えます。
「大げさ」は、ちょうどいいかもしれない
雷に気づいても動けない。
避難が必要と分かっても誰も動かない。
その背景には、「誤報を避けたい」「まだ大丈夫と思いたい」という心理が働いています。
しかし、“過剰に見える反応”こそが、災害から命を守る行動の第一歩になることを、私たちは忘れてはいけません。
鳴った警報を信じ、次の行動へつなげるには、仕組みが必要です。