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行動が変わる防災講評術⑦ “気分次第で動く”人の感情と講評の工夫

地域の避難所訓練に参加してみると、参加者の顔ぶれは実にさまざまです。 参加してみた方はすでにご存じだとは思うのですが、年齢も職業も、出身地や生活背景も異なる人たちが一堂に集まってくるのが地域の訓練です。 そんな中で見えてくるのは、“人は感情で動いている”というシンプルな事実です。

「なぜ今それをやろうと思ったの?」 ある避難所訓練で、参加者の行動を振り返っていたとき、ふと浮かんだ疑問でした。 そして返ってきた答えは――「なんとなく、気分で…」。

大人でも感情抜きに行動することは、実はとても難しいのです。 どんなにマニュアルを理解していても、「好き」「楽しい」「めんどくさい」といった感情は、私たちの行動に深く影響します。

今回は、「人は気分で反応する」というテーマから、避難所講評に活かせる4つの心理バイアスを紹介します。

理屈じゃない。“気分”が人を動かす

合理的な判断を下すロボットとは違い、人間は感情の生き物です。 好き・嫌い、楽しい・面倒、安心・不安といった感情が、その瞬間の行動を大きく左右します。

避難所訓練のような非日常では、なおさらその傾向が強くなります。 講評では、「どうすれば参加者の気分を前向きにできるか?」を考える視点が、行動を後押しする鍵になります。

■深夜のラブレター(感情任せで後悔)

【どんな心理?】 感情が高ぶったときに勢いで行動すると、あとで「なぜあんなことを…」と後悔することが多い。

【講評のヒント】 「不安や焦りから急いで判断してしまった場面がありました。落ち着いてから振り返る時間も、次回に生きるはずです」

■好きという感情(好きだと寛容に)

【どんな心理?】 “好き”や“信頼”の感情があると、多少の不備やミスがあっても気にならなくなる傾向がある。

【講評のヒント】 「顔見知り同士だと声をかけやすいという一面がありました。“関係性づくり”が避難行動の壁を下げますね」

■ゲームの要素(遊びと努力)

【どんな心理?】 ゲーム要素が加わることで、やらされ感ではなく“自分からやる”楽しさが生まれる。

【講評のヒント】 「チェックシートに“達成感”を感じて取り組めたという声がありました。“やらされ感”を減らす工夫、大事です」

■チートの誘惑(みんな楽したい)

【どんな心理?】 誰しも“ラクにできる方法”を無意識に探し求める傾向がある。

【講評のヒント】 「“近道できる”と言われたルートに流れる人が多かったように、楽をしたい気持ちは自然なこと。仕組みでコントロールしましょう」

感情を読み解くことで、行動が見えてくる

人の行動には、必ずその裏に“気分”があります。 講評では、結果だけでなく「なぜその気分になったのか」「どうすれば違う気分にできたか」を考えてみましょう。

感情は悪者ではありません。 むしろ、行動を後押しする強力な味方になることもあります。

感情のブレを支えるツール、N-HOPS

避難所運営支援アプリ「N-HOPS」は、 不安なときでも見やすく、使いやすい設計で、参加者の「できた!」という感情を育みます。

それは、小さな成功体験の積み重ね。 そして、避難所という非日常を“やれるかも”と思える場に変えるサポートになります。

淺野 智雄
淺野 智雄
能美防災 総合企画室 社内ベンチャーグループ長。自治体や地域に寄り添う防災のあり方を模索し、避難所運営支援アプリ「N-HOPS」をはじめ、現場の声に応じた防災支援ツールの開発・展開に取り組んでいる。元々は品質管理の現場からキャリアをスタートし、その後は中長期ビジョンの策定や新規事業開発など、経営と現場をつなぐ活動に従事。実際の運用現場に足を運び、改善を重ねる日々を大切にしている。趣味は筋トレと読書、料理。どんな状況でも前向きでいられるよう、朝4時からのトレーニングで心身を整えるのが日課。