
避難所DXを考える。「防災DXサービスマップ」から見えた課題とは
災害時の情報発信、避難指示のデジタル化、被災地の状況把握——。 いま、防災領域におけるデジタル化(防災DX)は大きく進展しています。
こうした動きを整理・可視化する目的で、デジタル庁が整備している「防災DXサービスマップ」が注目されています。 全国の防災関連ソリューションが一望できるこのマップは、自治体の導入検討やサービス比較に活用されはじめています。
本記事では、このサービスマップをもとに「避難所」に関係するDXサービスを困りごと起点で整理し、その傾向と不足点を明らかにします。
日々の業務で感じている「現場で本当に使える仕組み」とは何かを、あらためて考えるきっかけになれば幸いです。
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避難所DXを“困りごと”起点で読み解く
「避難所DX」とひとくちに言っても、その対象領域は多岐にわたります。 防災DXサービスマップには、2025年5月時点で約271のソリューションが掲載されています。そのうち、避難所に関係するソリューションは69件にのぼります。
これらを現場で起きがちな「困りごと」ごとに分類すると、次のような傾向が見えてきます。
困りごと①:避難所の混雑状況を把握・整理したい
受付業務のデジタル化、リアルタイムの混雑状況の可視化、分散避難の誘導といったソリューションが用意されています。
QRコードやマイナンバーを活用した入所処理、地図上での混雑情報の共有が代表的な例です。
困りごと②:備蓄品の在庫を正確に把握・管理したい
スマートフォンやクラウドを使って棚卸作業を行い、在庫情報をリアルタイムで更新・共有する仕組みが整備されています。
備蓄管理の効率化に貢献するソリューションが増加しています。
困りごと③:物資の調達や供給体制を確保したい
オンライン発注や供給予測支援、災害時の配送手段確保などに対応したEC型システムや支援ツールが展開されており、柔軟な物資調達が可能になっています。
困りごと④:避難者の情報を正確に把握したい
QRコードやSNS、LINEを活用したデジタル受付によって、避難者の情報を一元管理・リアルタイムで可視化することが可能です。
これらはいずれも、“管理の効率化”や“情報の見える化”を目的としたソリューションです。現場業務の負担軽減やスピード化に貢献しており、多くの自治体で導入や検討が進んでいます。
でも、「どう動けばいいか」を支えるDXは?
このように整理を進めていく中で、ひとつ気づくことがあります。 それは——
避難所に着いた人が「どう動けばいいか」を迷わず行動できるように支援する仕組みが、実はほとんど存在していないという点です。
避難所では、こんな声が聞かれます:
- 「マニュアルはあるけど読む時間がない」
- 「誰が来るか分からない状態で、役割分担ができない」
- 「経験がない職員や住民が、何から始めればいいか分からない」
実際、避難所において“行動の迷い”が生じやすいのは初動時です。
そのタイミングで誰もが迷わず動けるようにする仕組み——つまり「行動支援型DX」は、現状のサービスカタログにはほとんど見当たりません。
管理のDXから、行動のDXへ
防災DXの多くは、「記録」「集約」「分析」「可視化」といった、いわば“管理者視点”での課題解決を中心に進化してきました。
しかし避難所という現場では、管理だけでなく、“その場にいる人が何をすればいいか”を支援することこそが重要です。
求められるのは:
- 経験の有無にかかわらず迷わず動けるガイド
- 個別の状況に応じた役割行動の提示
- マニュアルを補完する“その場での判断を支える情報”
「読む」より「動ける」避難所。 それを実現するための行動支援DXは、今後の防災設計における空白領域であり、新たなテーマです。
まとめ
防災DXは確実に進んでいます。 見える化、データ化、業務の効率化という観点では多くのソリューションが存在し、自治体業務を支えています。
しかし、「避難所に着いたあと、最初にどう動けばいいか」は、依然として“人まかせ”になっているのが実情です。
避難所での初動対応において、行動を支える仕組みが足りていないこと。 それは、マニュアルや混雑可視化だけでは解決しきれない課題です。
避難所におけるDXの次のステップは、“管理から行動へ”です。 防災担当者の皆さまが日々感じている現場の「あと一歩」を、仕組みとしてどう支えていくか——。 その問いに向き合うタイミングが、いま訪れているのではないでしょうか。