共助は次世代につながるか?地域の担い手不足について考える

共助は“次世代”につながるか?地域の担い手不足について考える

「共助が大切」と言われて久しい中で、実際には地域の防災活動に新しい参加者が増えず、共助が形骸化しつつあるという声も少なくありません。

背景には、支援を必要とする人の増加と、地域のつながりの希薄化、そして公的な支援体制の限界という三重の構造的課題があります。

この記事では、共助の必要性を改めて確認しつつ、「若者と高齢者の関係性」に着目して、地域共助を次の世代につなげるためのヒントを探ります。

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目次[非表示]

  1. 1.なぜ共助が必要なのか?——3つの背景
    1. 1.1.背景①:支援を必要とする人が増えている
    2. 1.2.背景②:地域のつながりが薄れている
    3. 1.3.背景③:公助にも限界がある
  2. 2.共助が続かない、3つの現場課題
  3. 3.まずは“関係性”から:頼る高齢者、頼られる若者
  4. 4.デジタルが共助を遠ざけないために


なぜ共助が必要なのか?——3つの背景

背景①:支援を必要とする人が増えている

日本では高齢化が進み、支援を必要とする人の数が確実に増加しています。

1995年に約1,828万人だった65歳以上の高齢者人口は、2020年には3,603万人に(出典:総務省統計局)。高齢の単身世帯も220万人(1995年)から702万人(2020年)へと増加しています(出典:令和元年高齢者白書)。

つまり、災害時に「誰かの手助け」が必要な住民が確実に増えているということです。

背景②:地域のつながりが薄れている

支援を必要とする人が増える一方で、地域の共助を支える「近所づきあい」や「自治会活動」は減少傾向にあります。

近所づきあいがあると答える人は1975年の52.8%から、2022年には8.6%にまで減少しています(出典:平成19年版国民生活白書)。

町内会や自治会への参加率も、1968年の68.6%から2020年には38.2%にまで低下しています(出典:平成27年版厚生労働白書)。

災害時に声を掛け合う関係が失われつつあるのです。

背景③:公助にも限界がある

さらに、いざという時に頼りにされる「公助」も、実は縮小傾向にあります。

地方自治体の総職員数は1994年の328万人から、2022年には280万人へ減少しています(出典:地方公共団体定員管理調査結果)。

また、災害対応に不向きな非正規職員(臨時・非常勤)の数は2005年の45.5万人から2023年には74.2万人に増加(出典:地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査)。

消防団員も2013年の87.2万人から2023年には76.5万人へと減少しています(出典:日本消防協会HP)。

「公助が来るまでの時間を、地域の力でどうつなぐか」がますます問われる時代です。


共助が続かない、3つの現場課題

現場では、「共助の大切さは理解されていても、実行できない」という課題が表れています。

  • 新しい人が入ってこない:特定の高齢メンバーだけで構成されており、若い人が参加しにくい空気がある
  • 若者が関わる機会が少ない:日常の接点がなく、防災活動が“別世界”になっている
  • 訓練に“入りにくい”:マニュアルが複雑、周囲の動きがわからない、気後れしてしまう

立命館大学の豊田祐輔准教授が実施した調査によると、18歳から49歳の壮年層のうち30.2%が「どの地域防災企画にも参加したくない」と回答しています(出典:立命館大学 RADIANT)。

一方で、防災イベントや訓練に参加したことがない、あるいはほとんど参加していない人の約半数が、「今後参加したい」と答えており、参加のきっかけや心理的なハードルの存在がうかがえます。

また、防災イベントの現場では「堅苦しくて入りづらい」「最初の参加が気まずい」といった印象が若者の参加意欲を下げているという指摘もあります(出典:防災こまち note)。

このような状況のままでは、「共助」は徐々に失われていく一方です。



まずは“関係性”から:頼る高齢者、頼られる若者

共助をつなぐには、まず「関わりやすい関係性」を築くことが大切です。そのひとつが、「頼る高齢者」「頼られる若者」という構図です。

たとえば、避難所開設訓練の場面で:

  • 担架の組み立てが難しいときに、高齢者が「昔は竹で作ったんだ」と言い出し、若者が「じゃあ一緒に試してみましょう」と手を動かす
  • 「テント張りが苦手で…」という高齢者に、若者が「自分、キャンプやってるんで得意です」と前に出る
  • 無線機や発電機の扱いに戸惑う高齢者を見て、若者が「ちょっと調べてみます」とサポートする
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デジタルが共助を遠ざけないために

防災の現場では、近年デジタル技術の導入が進んでいます。避難所の受付管理や混雑状況の可視化、備蓄品の在庫管理など、多くの分野でタブレット端末やクラウド型ツールの活用が広がっています。

しかし、技術の進歩と現場の体制や住民の理解との間にはギャップがあり、「デジタル化が進むほど共助が難しくなるのでは」といった不安の声も一部では聞かれます。

共助を育てるうえで、デジタルツールは二面性を持ちます。「便利だけど難しい」という声が上がる一方で、世代間の関わりによってそのギャップが埋まることもあります。

たとえば:

  • 高齢者が「ちょっとスマホの使い方を教えて」と若者に声をかける
  • 若者が「じゃあ、訓練の時は僕が操作係やりますね」と自然に巻き込まれる
  • 高齢者も「この子がいるなら安心してデジタル訓練に出られる」と思える

こうした自然なやりとりが“共助のきっかけ”になります。

大切なのは、役割や責任を最初から押し付けるのではなく、「関わることで感謝される・役に立てる」という体験を、若い世代が得られるように設計することです。

防災担当職員がその橋渡し役となり、“誰もが動きやすい関係性”を訓練の中にデザインしていくことが、地域における共助再構築の第一歩になるのではないでしょうか。

「高齢者はデジタルが苦手」というイメージがありますが、それは“ひとりで操作する前提”で考えるからこそ。

実際には、サポート役がいれば安心して取り組める方も多く、「若者と一緒ならできそう」と感じる人は少なくありません。

今後の避難訓練や防災支援においては:

  • 高齢者と若者が一緒に参加できるように設計する
  • デジタルツールは「若者が操作するもの」として導入する
  • 若者に“役割”を明確に与えることで、自然に共助の輪に入ってもらう

こうした工夫が、共助の再構築と世代を越えた参加につながります。


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    淺野 智雄
    淺野 智雄
    能美防災 総合企画室 社内ベンチャーグループ長。自治体や地域に寄り添う防災のあり方を模索し、避難所運営支援アプリ「NHOPS」をはじめ、現場の声に応じた防災支援ツールの開発・展開に取り組んでいる。元々は品質管理の現場からキャリアをスタートし、その後は中長期ビジョンの策定や新規事業開発など、経営と現場をつなぐ活動に従事。2025年度からは社内ベンチャーの責任者として、企画・設計から営業・導入支援まで一貫して対応。自治体の防災担当者が「これなら使える」と感じてもらえるよう、実際の運用現場に足を運び、改善を重ねる日々を大切にしている。趣味は筋トレと読書、料理。どんな状況でも前向きでいられるよう、朝4時からのトレーニングで心身を整えるのが日課。