「マニュアルは整えた」その先へ。避難所運営に必要な備えとは?

「マニュアルは整えた」その先へ。避難所運営に必要な備えとは?

災害が発生したとき、避難所の開設と運営は誰が、どのように担うのでしょうか。

多くの自治体では避難所運営マニュアルが整備され、一定の訓練も実施されていることでしょう。しかし、「マニュアルがある」ことと「実際にうまく運営できる」ことは、必ずしもイコールではありません。

この記事では、災害救助法を入り口に、避難所運営における現実と限界、訓練の必要性について考えます。

目次[非表示]

  1. 1.避難所設置の根拠は?災害対策基本法と市町村の責務
  2. 2.公助への過度な期待は危険。現場の“ズレ”に気づく
  3. 3.マニュアルは整備された。でも本当に“できる”?
  4. 4.訓練のすすめ:「一度でも動いてみる」ことの大切さ
  5. 5.マニュアルには限界がある。その先に必要な工夫とは?
  6. 6.まとめ:マニュアルは「出発点」。運営力は現場で育つ

避難所設置の根拠は?災害対策基本法と市町村の責務

避難所の設置と運営は、災害対策基本法に基づいて市町村が担うべき責務として定められています。この法律は、避難勧告や避難指示、さらには避難所の設置・運営といった災害対策の基本的枠組みを規定しています。

市町村はそれぞれの地域防災計画に基づいて、どの施設を避難所とし、どのように運営していくかを具体的に定めており、職員にとってはまさに「現場で動かす」実務の中核となります。

一方、大規模災害時には災害救助法も適用され、仮設住宅の提供や物資の供給といった支援が、都道府県と国の枠組みの中で行われます。つまり、避難所に関しては「市町村が動き、都道府県・国が支える」という関係性が基本です。

この制度的枠組みを正しく理解したうえで、いかに現場で機能させるか。つまり、地域住民とともに避難所を動かせる体制を整えていくことが、いま各自治体に求められているのです。

公助への過度な期待は危険。現場の“ズレ”に気づく

内閣府の見解でも、「避難所運営の主体は地域住民である」とされています。行政はあくまで支援・連携役としての立場であり、避難所を動かす実行部隊として期待されているのは、そこに集まる地域の人たち自身です。

災害時、避難者の多くは「避難所に行けば何とかなる」「自治体がすべてやってくれる」と考えている傾向があります。

一方、行政職員側は「自主防災組織や地域住民の協力がなければ運営は成り立たない」と現実を知っています。この“期待と実態のギャップ”が、混乱を生む要因になります。

災害初期には物資も人手も足りず、マニュアルに書いてある通りに対応できる状況ではないことが多いのです。だからこそ、日頃から地域と共に避難所運営体制を構築しておく必要があるのです。

そのうえで、「共助が大事」と伝えるだけではなく、具体的にどう進めればいいかを考えることや具体的な手段を提供することも、行政の役割なのかもしれません。住民が“できることから動ける”仕組みを準備しておくことが、災害時の対応力を大きく左右します。

たとえば、「受付担当」「備蓄確認」「巡回係」など、避難所内の役割を事前にカード化しておくことで、住民が“自分にできること”を自然に選べる設計が可能です。共助を促すには、こうした「小さく始められる仕組み」が欠かせません。

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マニュアルは整備された。でも本当に“できる”?

多くの自治体では、避難所運営マニュアルの整備はすでに済んでおり、訓練も実施されています。現場での動きを具体化する努力は着実に進んでいるといえます。

ただし、こうした取り組みが住民の自立的な避難所運営につながっているかと問われると、まだ課題が残る場面も多いのではないでしょうか。

たとえば訓練においては、自治体職員が運営方法を説明し、住民がそれを聞いて行動するという構図になりがちです。

これでは、「住民が主体的に避難所を動かす体験」を得にくく、いざというときに誰が主導するのか曖昧になってしまいます。

  • 「マニュアルはあるけど、それを実際に自分が動かせる自信がない」
  • 「訓練ではできても、本番はもっと混乱すると思う」
  • 「何度も訓練を重ねているが、住民の参加率が伸びない」

マニュアルは基準であっても、それを使いこなす人・体制がなければ、ただの「紙」になってしまいます。さらに、「これ以上手間暇をかけても本当に機能するのだろうか」と感じている現場職員も少なくありません。

災害時、避難者の多くは「避難所に行けば何とかなる」「自治体がすべてやってくれる」と考えている傾向があります。

一方、行政職員側は「自主防災組織や地域住民の協力がなければ運営は成り立たない」と現実を知っています。

この“期待と実態のギャップ”が、混乱を生む要因になります。

災害初期には物資も人手も足りず、マニュアルに書いてある通りに対応できる状況ではないことが多いのです。だからこそ、日頃から地域と共に避難所運営体制を構築しておく必要があるのです。

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訓練のすすめ:「一度でも動いてみる」ことの大切さ

マニュアルに沿って動くことは大切ですが、実際の災害現場では「想定外」が必ず起きます。
その時に対応できるかどうかは、「一度でも自分で動いてみたことがあるかどうか」にかかっています。

訓練で見えてくる課題の一例:

  • 備蓄倉庫の鍵の所在がわからない
  • スタッフ間の連絡方法が不明確
  • 避難所レイアウトや動線がうまく設計されていない
  • 高齢者や子ども、外国人対応に戸惑う

こうしたリアルな気づきは、机上の想定では得られない「実行力」につながります。

マニュアルには限界がある。その先に必要な工夫とは?

マニュアルは、「全体の流れ」や「基本原則」を共有するためには重要なツールです。
しかし、それだけではカバーしきれない現場対応や判断が必ず発生します。

そこで求められるのは:

  • マニュアルを「誰でも使える形」に再設計(図解・カード化)
  • 初動の行動を支援するツールの導入(アクションカードやアプリなど)
  • 職員同士、住民同士が“顔の見える関係”を築く場づくり(平時から)

避難所運営を「職員だけの仕事」から、「共に動ける体制」へと変えていくことがカギになります。

まとめ:マニュアルは「出発点」。運営力は現場で育つ

マニュアルを整備した今こそ、運営力を現場で育てる“仕掛け”を導入することを、改めて検討してみてはいかがでしょうか。

災害救助法のもとで、避難所の設置・運営は制度的に担保されています。しかし、制度があっても、それを機能させるのは現場の人と仕組みです。

マニュアルはあくまで出発点。そこから「訓練」「関係性」「支援ツール」を積み重ねることで、ようやく避難所は“動かせる”状態になります。

「本当に動く避難所」を目指して、今できる準備を一歩ずつ積み重ねていきましょう。

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    淺野 智雄
    淺野 智雄
    能美防災 総合企画室 社内ベンチャーグループ長。自治体や地域に寄り添う防災のあり方を模索し、避難所運営支援アプリ「NHOPS」をはじめ、現場の声に応じた防災支援ツールの開発・展開に取り組んでいる。元々は品質管理の現場からキャリアをスタートし、その後は中長期ビジョンの策定や新規事業開発など、経営と現場をつなぐ活動に従事。2025年度からは社内ベンチャーの責任者として、企画・設計から営業・導入支援まで一貫して対応。自治体の防災担当者が「これなら使える」と感じてもらえるよう、実際の運用現場に足を運び、改善を重ねる日々を大切にしている。趣味は筋トレと読書、料理。どんな状況でも前向きでいられるよう、朝4時からのトレーニングで心身を整えるのが日課。