
自主防災組織を活性化する「住民参加型訓練」のつくり方
災害に備える地域の要、「自主防災組織」。
多くの自治体ではこの組織が整備されているものの、実際には活動が停滞していたり、特定のメンバーだけが関わっていたりするケースも少なくありません。
その背景には、「訓練に人が集まらない」「住民との接点がない」「役割が重荷になっている」など、運営上の課題があります。
この記事では、こうした状況を打破するためのアプローチとして注目される「住民参加型の避難訓練」のつくり方を取り上げ、具体的な事例と成功のポイントをご紹介します。自治体職員の皆さまにとって、地域を動かす実践のヒントとなれば幸いです。
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共助の理想と現実のギャップ
災害時には公助だけでは限界があることから、「自助・共助」が重要とされます。
特に地域防災の中核である自主防災組織には、「地域を支える共助の担い手」として期待が寄せられていますが、「共助が大事」と唱えるだけでは実際の活動につながらないのが現実です。
参加者が少なく、高齢化も進んでいる中で、どうすれば地域の多様な住民が関わりやすくなるのか——。
それは、日常生活の延長線上で「一歩踏み出せる仕掛け」を整えることにかかっています。
参加を促す“きっかけ”の工夫が鍵
共助を機能させる第一歩は、「多くの住民が一度関わってみる」こと。
そのためには、訓練の内容や告知方法に、以下のような“参加しやすさ”を取り入れることが効果的です:
- 避難所運営ゲーム、クイズなど体験型の工夫
- 子ども向け企画を入口に、家族単位での参加を促す
- 事前の役割割り当てではなく、その場でできる範囲からの関わり
- 自治体職員や消防など専門職との“協働感”を演出する
「誰でもできる」「一緒にやる雰囲気」を演出することで、最初の心理的ハードルを下げられます。共助を語る前に、参加したくなる仕掛けが必要なのです。
事例:地域の“巻き込み型訓練”の工夫
戸越銀座商店街(東京都品川区):まちなか防災訓練
戸越銀座商店街では、商店街を舞台にした「まちなか防災訓練」を定期的に開催しています。この取り組みは、日常の買い物ついでに防災を学べる「フェーズフリー」の考え方を取り入れ、地域住民や商店主の防災意識を高めています。防災クイズラリーや消火器体験など、子どもから大人まで楽しめるプログラムが用意されており、参加者の防災知識の向上が見られます。
参考リンク:戸越銀座商店街「まちなか防災訓練」紹介ページ(hitotowa)
三鷹市(東京都):みたか防災マルシェ
三鷹市では、NPO法人Mitakaみんなの防災の設立を記念して「みたか防災マルシェ」を開催しました。「楽しく学べる、役に立つ!」をコンセプトに、VR防災体験車や消火器体験、避難所体験など多彩なプログラムが展開され、2日間で2,650人が来場。ファミリー層の参加が多く、地域の防災意識向上に寄与しました。
参考リンク:みたか防災マルシェ(Mitakaみんなの防災)
枚方市(大阪府):地域コミュニティと小学校の合同防災訓練
枚方市では、地域コミュニティと校区の児童が連携して合同防災訓練を実施しています。この取り組みでは、地域住民と小学生が一緒に避難経路の確認や応急手当の方法を学ぶことで、地域全体の防災意識を高めています。子どもたちが防災の重要性を理解し、家庭での防災意識向上にもつながる仕掛けとなっています。
参考リンク:枚方市消防団 公式ホームページ
活性化の共通項とは?
上記のような事例に共通するのは:
- 日常の接点を防災の入口に活用していること
- 関わる人が「感謝された」「役に立てた」と感じられる体験を作っていること
- 役割を“委ねる”のではなく、“一緒にやる”ことを意識していること
「訓練」そのものを目的にするのではなく、人と人がつながる“場”として設計する視点が、地域活動の継続性を高める鍵です。これこそが、自主防災組織が自然と活性化する共通項といえるでしょう。
まとめ:「共助が大切」だけでは動かない
「共助が大切です」と呼びかけることは重要ですが、それだけでは人は動きません。人は感情で動くものであり、理屈だけで行動を変えるのは難しいものです。
「公助には限界がある」「自助・共助が大切だ」と丁寧に説明しても、心を動かさなければ行動にはつながりません。
きっかけを丁寧にデザインすることで、共助は驚くほど自然に動き出すことがあります。地域の誰かが声を上げ、誰かが「やってみようかな」と思えるような場面を、訓練の中で仕掛けていくことが、住民参加と自主防災組織の活性化には欠かせません。
大切なのは、住民が自ら関わりたくなる“きっかけ”をデザインすること。
その第一歩として、「一度関われば、次もやってみようと思える」ような訓練設計が、これからの地域防災には求められています。