
現場から考える避難所のリアル #7|避難所にいる先生は守られるのか
避難所の課題を調べる中で、兵庫県教育委員会の方とお話しする機会がありました。
そこで初めて耳にしたのが、「EARTH(震災・学校支援チーム)」という取り組みです。
災害が起きたとき、避難所として開かれる学校。その現場で、教職員や子どもたちに寄り添い、心のケアや教育の再開支援を行うのがEARTHです。
けれど、彼らが果たしているもう一つの役割──それは「避難所運営から先生を引き上げる」という支援でした。
この言葉に、私ははっとしました。 「誰が避難所を開けるのか」ではなく、「開けた人をどう支えるのか」。そんな視点で、避難所の運営を考えたことがなかったからです。
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避難所の鍵を開けるのは、たいてい先生だという現実
地域の避難所の多くは学校です。だから災害が起きたとき、最初に現場にいるのは、たまたま残っていた教職員──というケースがとても多いのです。
鍵を開け、避難者を受け入れる。それは本当に大切な初動。
でも、そのまま先生が避難所の“顔”として運営を担い続けるのが、果たして地域にとって本当に望ましい形なのか……。
EARTHの方が話してくれました。
「先生は、教育の現場に戻ってもらうのが一番です。だから私たちは、地域の方へ運営を引き継ぐお手伝いをしています」
教育と避難所運営。それぞれに専門性があるからこそ、役割を分ける必要があるのだと気づかされました。
「先生ならできるでしょ」は、通用しない時代へ
今では「防災主任制度」など、学校と地域をつなぐ仕組みも各地で整えられつつあります。
でも実際には、新任の先生が着任してすぐに防災の中心を担う──地域の事情もわからないまま計画を立てる──そんなことが現場では起きています。
先生自身も、地域の方も、不安を抱えたまま避難計画を作らざるを得ない。
制度はあっても、回すための仕組みや支援が追いついていない。それが現場のリアルです。
誰が回すのか──地域と行政の“構え”が問われている
EARTHの支援は、決して派手なものではありません。
地域の方々と何度も話し合いを重ね、運営のバトンを先生から住民へと少しずつ手渡していく。そんな地道な支援です。
「誰がやるか」ではなく、「一緒にやる」。
その視点が、避難所の自立にも、先生の心身の余裕にもつながっていくのだと思います。
私たちも、防災に関わる一員として、地域の仕組みを支える側に立ちたい。そんな想いが自然と芽生えました。
判断の“型”と、行動の“仕掛け”が必要です
避難所の混乱を防ぐには、「人」ではなく「型」が必要だと、最近強く思うようになりました。
誰が鍵を開けたか、ではなく、その後に何をどうすればよいのか。手順が見える形になっていて、誰もが安心して引き継げる。それだけで、現場の空気は大きく変わります。
受付、間取り、掲示物、役割分担……避難所ごとに違いがあるからこそ、共通する“基本動作”を型にしておくことが大切です。
迷わず動ける仕掛け。それが、先生一人にすべてを任せない避難所運営の第一歩になると思います。
教育を守るということは、先生を守ることでもある
「先生がいてくれて助かった」──そんな声は、本当に多くの現場で聞かれてきました。
けれど、その先生自身は、誰に守られていたのでしょうか?
教育を、地域を、守るためには、教職員を支える仕組みが必要です。
避難所の初動に、誰が立ち会うのか。 その人が、安心して次の人に引き継げる環境が整っているのか。
私たちがいま、見直すべきは、そうした“支え方”の設計なのかもしれません。
──あなたの地域で、先生が避難所を開けたとき。 その次の“動き出し”を、誰がどう支えるか、一度立ち止まって考えてみませんか。