「開設されるのを待つ」から「自分たちで開ける」避難所へ

「開設されるのを待つ」から「自分たちで開ける」避難所へ

災害時、避難所を開けるのは誰か。
この問いに、明確に答えられる地域はまだ多くありません。

「マニュアルはあるけど、自分たちでやれる気がしない」
「訓練しても実感が湧かない。参加も広がらない」

そんな声が、防災担当者の間で少しずつ増えています。
ある自治体では、この状況を変えるために——

  • 若年層が主体となって避難所を開設する訓練
  • 男女共同参画の視点を“体感”として落とし込むプログラム
  • 地域住民がともに運営を担う、実効性ある仕組み

といった訓練を模索していました。
なぜ、いま自治体はこのような悩みに直面しているのでしょうか?

本記事では、避難所運営にまつわる「現場のつまずき」の背景を掘り下げながら、
若年層の関与・男女共同参画・共助の再構築という3つの視点から、地域が抱える構造的な課題を整理します。

“うちも同じかもしれない”
そんな気づきのヒントになれば幸いです。

目次[非表示]

  1. 1.若年層に、関われる“役割”をちゃんと見せられていますか?
  2. 2.男女共同での避難所づくり、進んでいますか?
  3. 3.共助の設計、理念で止まっていませんか?
  4. 4.「うちもそうかも」から、次の一歩を

若年層に、関われる“役割”をちゃんと見せられていますか?

地域防災を考えるとき、「若年層の意識醸成」という言葉は一見抽象的に聞こえるかもしれません。
しかしその背景には、私たち自身の側にある、こんな課題が潜んでいます。

  • 若者が関われる“役割”が設計されていない
  • 訓練の中で「見学」や「補助」に留まりがち
  • 成功体験や達成感につながる導線が用意されていない
  • 既存メンバー中心のコミュニティに、入りづらさがある

つまり、「若者が来ない」のではなく、「関わる余地が提示できていない」という見方もできるのです。

本来、若年層は地域の将来を支える大切な担い手です。
しかし、彼らが避難所運営を“自分ごと”として関わるためには、

  • 「あなたの出番がここにある」と具体的に示せること
  • そして、参加を通じて「やってよかった」と思える体験があること

この2つが不可欠です。
“参加させる訓練”ではなく、“関われる設計”をつくる訓練こそ、これからの地域防災に求められているのではないでしょうか。

男女共同での避難所づくり、進んでいますか?

訓練や計画の中で「女性の意見を反映すること」は意識されるようになってきました。
でも、それが本当に“現場に根づいている”と言えるでしょうか?

  • 女性が設計や意思決定の段階から関わっていない
  • 避難所での役割がケアや補助に偏っている
  • プライバシーや安全性の配慮が十分に考慮されていない
  • 男女で“関わり方の温度差”が残ったまま訓練が終わってしまう

こうした状態では、「配慮」はあっても「共同」を実現するのは難しいですよね。

本来の男女共同とは、「女性の意見も聞く」というレベルではなく、
最初から一緒に避難所をつくること、そして一緒に運営できる仕組みにすることです。

避難所という“地域の最後のセーフティネット”を、
性別や役割に関係なく、「ともに担える」形でデザインし直す。
その一歩を踏み出せるかが、これからの防災訓練に問われています。

共助の設計、理念で止まっていませんか?

訓練の場ではよく「共助が大切です」と伝えられます。
でも、その言葉が本当に“実感”に変わっているでしょうか?

  • 特定のリーダーや有志に依存していないか
  • 毎回同じ人が準備・運営を担っていないか
  • 訓練で得た気づきが、次回に活かされずに終わっていないか

これはつまり、「共助をどう“仕組み”にするか」という視点の欠如です。

よくあるのが「避難所キットをつくる」という発想です。
もちろん道具や手順の可視化は有効ですが、それが“つくったら終わり”になるのはもったいない

むしろ大切なのは、

  • 継続的に見直しながら使い続けられる仕組みであること
  • 訓練や実運用のフィードバックを反映できる柔軟性があること
  • 世代や立場を超えて共に運用し続けられる関係性を設計すること

キットやツールは、その“仕組み”を支える手段の一つにすぎません。
共助が地域に根づくためには、変化に合わせて育て続けられる“循環”のデザインこそが必要なのです

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「うちもそうかも」から、次の一歩を

若者が来ないのではなく、役割が見えていない
女性が配慮されていないのではなく、最初から関与できていない
共助が弱いのではなく、仕組みとして設計されていない

こうして見ていくと、私たちの側にもまだ“伸びしろ”があることに気づきます。

だからこそいま、訓練の目的を「動ける人を増やすこと」から、「誰でも動ける仕組みに変えること」へと転換していく必要があるのではないでしょうか。

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    淺野 智雄
    淺野 智雄
    能美防災 総合企画室 社内ベンチャーグループ長。自治体や地域に寄り添う防災のあり方を模索し、避難所運営支援アプリ「NHOPS」をはじめ、現場の声に応じた防災支援ツールの開発・展開に取り組んでいる。元々は品質管理の現場からキャリアをスタートし、その後は中長期ビジョンの策定や新規事業開発など、経営と現場をつなぐ活動に従事。2025年度からは社内ベンチャーの責任者として、企画・設計から営業・導入支援まで一貫して対応。自治体の防災担当者が「これなら使える」と感じてもらえるよう、実際の運用現場に足を運び、改善を重ねる日々を大切にしている。趣味は筋トレと読書、料理。どんな状況でも前向きでいられるよう、朝4時からのトレーニングで心身を整えるのが日課。