防災プロを養成し地域の防災力を高める!でもそれだけで大丈夫?

防災プロを養成し地域の防災力を高める!でも、それだけで大丈夫?

こんにちは。私はこれまで、全国の自治体で防災に関わる職員の方々とお話をしながら、現場での課題や取り組みに耳を傾けてきました。

どの地域でも共通して感じたのは、皆さんが本当に真剣に、限られた時間と人手のなかで「少しでも良い避難所運営を」と取り組まれているということです。

そうした中で、最近特によく耳にするのが、「防災のプロを育てる」講座への関心と実践です。

防災人材の育成は、確かに力になる

ある自治体では、避難所運営に関する専門講座を通じて、地域の防災リーダーを育成してきました。

講座では、避難所の立ち上げから運営体制づくり、要配慮者対応や衛生管理など、実践的な知識を学びます。

実際に受講した住民や職員が、訓練を主導したり、避難所マニュアルの改訂を提案したりと、地域に新たな動きが生まれています。

「誰かが動き出すと、地域が動く」

その好循環をつくるための第一歩として、人材育成が果たしている役割は決して小さくありません。

数年取り組んだからこそ見えてくる不安も

こうした講座を数年間続けてきた自治体では、少しずつ違った視点での課題も出てきています。

「でも、その人……災害のとき、現場にいるんでしょうか?」

実際、講座で育成した人材が、異動や転勤をしてしまったり、町会の役職を退いたり、訓練当日に不在だったりというケースもあったそうです。

  • 頼りにしていた“あの人”が来られない
  • 他のメンバーは「自分にはできない」と思ってしまっている
  • 次に続く人が育っていない

こうして、“育てた人材”がいる前提で組んでいた体制が、属人化という落とし穴に陥ってしまうことがあるのです。

これは、実際に講座をやってみたからこそ見えてくる現場のリアルだと、私は感じています。

属人化を乗り越えるための、次の工夫が始まっている

今、多くの自治体がこの属人化の課題に向き合いはじめています。
現場でよく見かけるのが、「誰でもある程度動けるようにするための工夫」です。

たとえば、

  • 避難所開設の手順をA4のチェックリストにまとめて掲示する
  • アクションカードを配って、役割分担を明確にする
  • マニュアルを簡易化して、初動行動に絞った形で配布する

いずれも、属人化のリスクを下げるための前向きな試みです。
そして、これらは確かに一定の効果を発揮しています。

職員の方からはこんな声も

「配ったけど、実際には使われていないんです」
「初動の流れは書いてあるけれど、状況が変わったときに迷ってしまう」
「“なぜこの順番なのか”がわからないと、応用できないんですよね」

つまり、マニュアルやカードの“内容”というよりも、活用される環境や、運用時の不安に寄り添う仕組みが不足しているという声です。

「あるけど、使われない」
「見るけど、動けない」

そんな“もやもや”に、多くの職員が気づきはじめているようです。

本当に必要なのは、“迷ったときに次の一歩が見えること”

避難所運営の現場では、「何をするか」だけでなく、「なぜそれをするのか」「次に何をすべきか」が常に問われます。

だからこそ、必要なのは:

  • 見てすぐに行動できる“手順の見える化”
  • 状況が変わったときに、判断の道筋を示してくれる“補助線”
  • 経験が浅くても迷わず動ける“支援の仕組み”

マニュアルもカードも必要です。でもそれは“静的”な情報です。
“動きながら使える仕組み”があって、はじめて現場が生きてくるのだと、各地の声を聞いて実感しています。

今、“その先”の仕掛けを考える動きも

講座をやった。マニュアルも整えた。カードも配った。
それでも、まだ不安がある──
それは、あなたの現場だけではありません。

むしろ、そこに気づけたことが、「次の防災力づくり」の出発点かもしれません。
今、そうした声を受けて、迷ったときに次の一歩を示す仕組みを導入しようという動きも、各地で少しずつ始まっています。

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おわりに

防災の仕事は、いつも“正解がない中での判断”の連続です。
だからこそ、人を育て、仕組みを整え、現場に残す。
そのどれか一つだけでなく、全部を少しずつ組み合わせていくことが、これからの防災には求められていると私は感じています。

「誰かがいるから大丈夫」ではなく、
「誰でも動けるから、大丈夫」な避難所運営へ。

その第一歩を、もう始めている皆さんの取り組みに、心から敬意を表します。

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    淺野 智雄
    淺野 智雄
    能美防災 総合企画室 社内ベンチャーグループ長。自治体や地域に寄り添う防災のあり方を模索し、避難所運営支援アプリ「NHOPS」をはじめ、現場の声に応じた防災支援ツールの開発・展開に取り組んでいる。元々は品質管理の現場からキャリアをスタートし、その後は中長期ビジョンの策定や新規事業開発など、経営と現場をつなぐ活動に従事。2025年度からは社内ベンチャーの責任者として、企画・設計から営業・導入支援まで一貫して対応。自治体の防災担当者が「これなら使える」と感じてもらえるよう、実際の運用現場に足を運び、改善を重ねる日々を大切にしている。趣味は筋トレと読書、料理。どんな状況でも前向きでいられるよう、朝4時からのトレーニングで心身を整えるのが日課。