
BCPと医療の知恵から生まれた「ステップガイド」──避難所開設の新常識
筆者はこれまで100を超える自治体の防災担当職員の方々と直接お話をしてきました。
加えて、全国各地で行われている住民主体の避難所訓練にも多数参加することで、現場の声を肌で感じる機会が多々ありました。
その中で繰り返し浮かび上がってきたのが、「避難所がすぐに動き出せない」という課題です。
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「見る訓練」はしてきた。でも「やる訓練」は?
ある訓練で、こんな声を耳にしました。
「見る訓練はしてきたが、やる訓練はしたことがないかも…」
マニュアルは整備されていても、それを読み込んで動き出せる人は限られています。
災害発生直後の混乱の中で、ページを開いて確認する余裕などない。
誰がやるのか、どこに何があるのか、そもそも何を優先すべきか。
そうしたことが曖昧なままでは、動き出すのは難しい——それが、現場で私たちが何度も見てきた実情です。
「計画」より「行動」を支える仕組みが必要だ
企業のBCP(事業継続計画)に、この課題に既視感を覚えました。
緊急時に業務を止めないために、属人化を排除し、行動単位で準備をする。BCPとは、まさにそうした考え方のもとで構築されます。
そしてもう一つ、災害医療の現場で使われている「アクションカード」にも私たちはヒントを得ました。混乱の中でも医療従事者が迷わず動けるように作られた、役割ごとの行動指針カードです。
これらの知見を掛け合わせて生まれたのが、私たちの避難所支援ソリューション「N-HOPS」でした。
行動を引き出す「ステップガイド」という考え方
N-HOPSの中核にあるのが、「ステップガイド」です。
これは、避難所開設の作業をタスクごとに分解し、それぞれに必要な物資・場所・手順を、誰でもすぐに理解できる形で提示する仕組みです。
- 「受付を立ち上げるには、どこに行き、何を持ち、何をするか」
- 「トイレを設置するには、何人で、どこに、どの順に」
こうした“動き出しの一歩”を、あらかじめガイドとして用意しておく。
訓練を積んだ人だけでなく、初めてその場に立った人でも、目の前の行動に迷わない。
それが、私たちの考える理想の支援ツールです。
「キット」の限界を乗り越えるために
近年では、避難所開設支援の「キット」を導入している自治体も増えています。
現場の工夫と努力のたまものです。
ただ、私たちが現場で見てきた声は、こうしたものでした:
- 「倉庫に置いたまま、使い方がわからない」
- 「中身を見たこともない」
- 「訓練をしないと、結局使えない」
つまり、モノとしてのキットだけでは、行動に結びつかないことがあるのです。N-HOPSは、そのギャップを埋める“行動のインターフェース”です。
訓練が不要だとは思っていません
私たちは、訓練を軽視しているわけではありません。
むしろ、訓練の重要性は十分に理解しています。
ただ、災害時には「訓練していない人」が現場に立つ可能性がある——この現実を踏まえた支援が、今求められているのではないでしょうか。
だからこそ、N-HOPSのステップガイドは、「誰かがいればできる」ではなく、「誰でも動ける」ことを目指しています。
最後に:すべての現場に、次の一歩を
自治体の防災現場には、それぞれの地域性と、積み重ねてきた努力があります。私たちは、その一つひとつに敬意を抱いています。
N-HOPSは、そうした現場の工夫を活かしながら、「計画より行動」を後押しする仕組みとして開発しました。
すでにできている取り組みを、もう一歩前へ進める。N-HOPSはそのパートナーでありたいと考えています。