
「まずは自分で考えて」はズレている?若者が納得する防災とは
これまでさまざまな自治体の避難所開設訓練に参加する中で、私はある違和感を覚えるようになりました。
防災訓練の現場では、昭和世代を中心とした防災アドバイザーや外部講師と呼ばれる方々が、自信たっぷりに「まずは自分で考えてみてください」「答えを教えるのは簡単ですが、それでは意味がない」などと語る場面によく出会います。
しかし、私はそうした場面に触れるたび、違和感と苛立ちを覚えてきました。
本当にそれが、有効なアプローチなのでしょうか? 彼らのやり方が防災訓練のスタンダードだとしたら、それは少しズレているのではないか――そんな問題意識を持つようになったのです。
「講話を用意しても、若者の反応が薄い」
「話は静かに聞いてくれるが、そこから動きが出てこない」
「“まずは自分で考えてやってみて”と言っても、戸惑ったまま手が止まってしまう」
こうした現場の声に触れるたびに思うのは、若者の意識が低いのではなく、年配講師による一方的な講話では心に届かないという“アプローチのミスマッチ”があるのではないかということです。
この文章では、防災訓練で広く実施されている座学(防災講話など)のあり方や、Z世代がどのような支援や情報提供を求めているのかを考察しながら、「若者に届く訓練」へのヒントをお届けします。
目次[非表示]
困ったら座学&講話をしていませんか?
総務省消防庁の資料や実地観察から、多くの市町村では避難所開設訓練に加え、防災講話や出前講座などの座学も実施されていることがわかっています。
たとえば、地域のリスクに関する説明、避難所の基本機能、備蓄品の使い方、運営マニュアルの読み合わせなど。これらの情報は多くの場合、会議室や体育館などで講師が一方的に伝える形式で行われます。
また、訓練の導入部として「講話→実技」という構成をとる自治体も少なくありません。
しかし、このスタイルはZ世代にはあまり効果的ではないという現実があります。
Z世代は「適切な教材+サポート」を求めている
Z世代(1990年代後半〜2010年前後生まれ)の若者は、情報の多い環境で育ち、「何を信頼し、どう理解するか」に常に意識を向けてきた世代です。
彼らは、
- 無駄を嫌い、効率を重視
- 明文化された情報や手順を好む(図解・動画・チェックリストなど)
- 「自分で調べる」ことに慣れているが、指針がないまま放置されるのは不安
という傾向を持ちます。
そのため、講話のような「一方的で長時間」の情報提供には集中しづらく、 「まずやってみて」だけでは、自信を持って動き出すことができません。
Z世代に必要なのは、要点を押さえた教材と、質問しやすいサポートの組み合わせです。
「何をすればいいのかを理解したうえで、どう工夫できるか考えたい」
この感覚に沿った訓練設計があれば、彼らは“自分ごと”として関わってくれるはずです。
今の企業で行っている若手社員への教育とは
私たちの会社でも、新卒や若手社員へのOJTでは、かつてのような「まずは見て覚えろ」や「自分で考えてやってみろ」は通用しません。
まずは動画やチェックリスト、手順書を渡し、分からない部分をすぐに聞ける環境をつくり、そのうえで実地に入ってもらう――そうした“ハイブリッド型”の教育が標準になっています。
にもかかわらず、地域の防災訓練だけが、いまだに「講話→現場」の一方通行で進んでいるのだとしたら、そこに改善の余地があるのではないでしょうか。
もしかすると、講話を担当する講師自身が、企業に属しておらず伝える方法が独自なものになっていることや、最新の防災知識や若年層の特性に精通していないのかもしれません。
いずれにせよ、結果として、「伝えるべき情報」ではなく「話し手が伝えやすい話」に偏りがちになり、せっかくの訓練機会が参加者に響かないのです。
もちろん、講師側に悪意はなく、善意から伝えていることも理解しています。ただ、その“善意の伝達”が、現代の住民、特に若者にとって有効であるかどうか、一度立ち止まって見直す必要があるのではないでしょうか。
若者の“納得感”と“参加”を引き出すために
Z世代の特徴は、「指示されたことしかやらない」のではなく、目的と全体像が共有されれば、柔軟に動ける点にあります。
防災訓練においても、
- 基本手順をマルチメディアで提示する
- 目的やゴールを明確にする
- チームで振り返る機会をつくり、しっかりと手順に反映させる
といった工夫が、彼らの主体性を引き出す第一歩になります。
講話だけで終わらせない訓練へ
防災教育は、変わる必要があります。
N-HOPSは、Z世代が安心して参加できる環境づくりを支援し、地域全体での共創型防災を後押しします。
若者とつながる避難所訓練へ、今こそ一歩を踏み出しましょう。