
不慣れな環境で「まずやってみて」に戸惑う若者の声に
ある避難所開設訓練に参加したときのこと。地域の大学生がボランティアとして参加しており、そのうちの一人に話を聞く機会がありました。
訓練の最中、ベテラン講師から「まずは自分で考えてやってみて」と促されたときの彼女の反応は意外なものでした。
「“まずやってみて”って言われるの、すごく苦手なんです。正解がわからないまま動くのが不安で、防災ってなんだか難しいものなんだなって感じてしまいました。講師から“ほら、工夫してみて”と促されたときは、何も答えられず白けてしまって……正直、防災のことがちょっと怖くなってしまったんです」正解がわからないまま動くのが不安で、防災ってなんだか難しいものなんだなって感じてしまいました」
せっかく関心を持って来てくれた若者が、かえって防災に対してネガティブな印象を持ってしまったことに、私は大きな衝撃を受けました。
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「まずは自分で考えて」は本当に有効か?
防災訓練の現場では、「まずやってみる」「自分で考えることで学ぶ」といった方針が今も多く採られています。それは、実際の災害現場では正解がひとつではなく、主体的な判断力が求められることを見据えた、非常にまっとうな姿勢です。
ですが、その姿勢が、参加者――特に若年層にとっては、「不親切」「突き放された」と受け取られることがあるのです。
Z世代(1990年代後半〜2010年前後生まれ)と呼ばれる若者は、デジタル環境で育ち、効率よく学ぶスタイルに慣れています。
彼らが求めているのは、正解を示したうえで、その先に工夫や応用の余地があるスタイルです。
「正解が共有されていれば、自分がどこでつまずいたのかがわかるし、質問もしやすい」
これは、決して甘えではなく、効率よく学び、より深く理解しようとする意欲の表れです。
伝える側にも課題があるのかもしれない
防災訓練で講話を行うのは、昭和世代を中心とした経験豊富な防災アドバイザーや地域リーダーの方々が多く、その姿勢や使命感には頭が下がります。
しかし、その伝え方が、いつの間にか「自分の伝えたいことを話す」ことに終始していないでしょうか。
最新の知識や、参加者――特に若年層の学びの特性への理解が不足していると、「良かれと思って」の指導が、結果として若者を遠ざける原因にもなってしまいます。
もちろん、意図は善意であり、経験を伝えたいという熱意であることは十分理解できます。だからこそ、今の若者に伝えるにはどうすればいいか、一緒に考えていきたいのです。
今の教育・研修は“ハイブリッド”が当たり前
私たちの会社でも、新卒や若手社員へのOJTでは、かつてのような「まずは見て覚えろ」や「考えてから質問しろ」というスタイルは通用しません。
最初に動画や手順書、チェックリストなどを示し、基本を理解してもらう。そのうえで、実地での経験を通じて理解を深めていく。このような“ハイブリッド型”の育成が、いまや常識になっています。
にもかかわらず、地域の防災訓練では、講話中心・実地指導なしという従来型の形式がいまだに主流です。防災教育だけが、古い価値観のままで取り残されているのではないか――そんな危機感があります。
防災訓練は“わかる・できる”の第一歩から
若者にとって「不慣れな環境で、まず考えてやってみる」という状況は、単なる不安の種です。指導者が考えている“育て方”が、そのまま相手の“学び方”と一致するとは限りません。
では、どうすればよいのでしょうか。
- 最初に目的や手順、成功イメージを共有する
- 一人ひとりが安心して挑戦できる環境を整える
- 「まず正解、その先に創意工夫」の順で学べる設計をする
こうした工夫が、若年層に限らず、誰にとっても参加しやすい訓練づくりにつながります。
N-HOPSという選択肢
能美防災が開発した避難所運営支援ツール「N-HOPS」は、まさにそうした“わかりやすさ”を重視したソリューションです。
タブレットやスマホで避難所の開設手順がひと目でわかる
チェックリストや図解、動画で役割分担も明確に
はじめて参加する住民でも、何をすべきかが即座に理解できる
訓練の準備も、参加のハードルも下げられるN-HOPS。若者とのコミュニケーションに悩む防災担当職員の皆さまにも、ぜひ知っていただきたいツールです。
最後に――すれ違いを、つながりに変えるために
防災を伝えたい――その想いがあるからこそ、すれ違いに悩むのだと思います。
「伝わらなかった」で終わらせず、「どうすれば伝わるか」を一緒に考えていく。
若者との対話の中に、新しい防災の形が見えてくるかもしれません。
その第一歩を、今ここから。