
行動が変わる防災講評術④ 距離感が左右する6つの心理
避難所訓練で、参加者が手前の段ボールにはすぐ反応するのに、 少し離れた棚の物資には誰も近づかない——そんな場面に何度か遭遇しました。
不思議に思って聞いてみると、「あっちは担当じゃないと思った」「遠くて気づかなかった」と言います。
そう、ほんの少しの“距離”で、人の行動はこんなにも変わるのです。
距離には2種類あります。ひとつは、物理的な距離。もうひとつは、心理的な距離です。 人は、自分の近くにあるものや関わりのある人には親近感を持ちますが、 遠くにあったり、知らないものには不安や警戒心を抱き、無意識に線引きをしてしまいます。
でもその距離は、固定されたものではありません。 手で触れること、関わること、共通点を見つけることで、“遠い存在”が急に“自分ごと”に変わることもあるのです。
今回は、避難所訓練で活かせる「距離感」に関する6つの心理バイアスを紹介し、 講評の場面でどう気づきと行動につなげていくかを考えていきます。
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距離が生む“無関心”をどう縮めるか
「これは自分の担当ではない」
「知らない人だから、声はかけづらい」
「見慣れない掲示物は、読み飛ばしてしまう」
こうした“距離感”からくる無関心や遠慮は、避難所運営の中でも小さな不具合として現れます。
ここでは、そうした距離を縮め、行動を引き出すための6つの心理バイアスを紹介します。
■内集団・外集団(仲間と他人を分けてしまう心理)
【どんな心理?】 人は“自分の仲間”と“そうでない人”を無意識に区別し、身内を優遇してしまう傾向があります。
【講評のヒント】
「同じ町内会同士で声をかけ合っていた一方、別地域の参加者には遠慮していた場面がありました。“誰もが同じ住民”という共通項が必要です」
■タッチ効果(実際に触れることで心理的距離が縮まる)
【どんな心理?】 実際に手で触れることで、対象への親しみが増す傾向。参加体験が“自分ごと化”につながります
【講評のヒント】
「参加者自身が備品を並べたことで、“自分たちが整えた場”という意識が広がっていました。触れることが“自分ごと化”のきっかけになります」
■保有効果(自分の関係物は特別に感じてしまう)
【どんな心理?】
自分が関係しているものは、他人のものよりも価値が高いと感じやすい傾向。
【講評のヒント】
「〇〇さんが自分の担当区画を丁寧に管理していたのは、“自分の場所”だと感じていたからこそ。担当の“所有感”は行動を変えます」
■DIY効果(関わった作業には強い愛着が湧く)
【どんな心理?】
自分が手を加えたものほど、評価が高まり、大切に扱いたくなる傾向。
【講評のヒント】
「貼り出す案内を自分たちで手書きしたグループは、掲示板周辺の整理や声かけにも主体的でした。“自分が関わった”が、行動のエンジンになるのですね」
■ノスタルジア効果(懐かしさが心を開かせる)
【どんな心理?】
過去の記憶や懐かしい物に触れることで、安心感や共感が生まれやすくなる傾向。
【講評のヒント】
「昔ながらの毛布や使い慣れた備品があることで、不安な中にも“懐かしさ”が安心感につながっていたように見えました」
■MAYA理論(親しみと新しさの絶妙なバランスに惹かれる)
【どんな心理?】 人は“見慣れたもの”に安心しつつ、少しだけ“新しいもの”に惹かれる傾向。
【講評のヒント】
「従来の掲示と新しい掲示が混在したとき、手書き+QRコードという“見慣れた+新しい”組み合わせがスムーズに受け入れられていました」
講評は“距離を近づける言葉”にできる
避難所運営では、担当や役割を分担することが不可欠です。 でも、それが“自分の範囲だけやればいい”という分断につながっては意味がありません。
講評の場面では、「どうすれば他人事が自分ごとになるか」「何が距離を縮めたのか」といった視点を持つことで、 参加者の気づきと行動を促すことができます。
“触れた”“関わった”“思い出とつながった”——その瞬間に、人と人、人と場所との距離は縮まります。
情報と行動の“距離”を埋めるN-HOPS
「誰が、どこで、何をしているのか」 「何が、どこに、どれだけあるのか」
能美防災が提供する避難所運営支援アプリ「N-HOPS」は、 そうした“見えない距離”を“見える情報”で埋める仕組みを提供します。
必要な情報が適切に共有されれば、人はもっと動きやすくなる。 距離を縮めることで、避難所運営はもっとスムーズになるのです。