
避難所DXで考えたい、「誰がやるか」と「どう動くか」
災害が起きたとき、避難所を誰が担当するのか。
一見すると、とても基本的な問いのように思えます。
しかし実際の災害対応では、この「誰が担うのか」という問題は、決して単純ではありません。
2026年8月13日の伊勢新聞に、三重県の避難所対応に関する興味深い記事が掲載されました。
記事によると、一見勝之三重県知事は12日の定例記者会見で、防災対策部だけで避難所まで対応することは難しいとの認識を示し、避難所関連業務の中心的な役割を別の部局に移す方向で検討していることを明らかにしました。
背景には、地震発生時、防災対策部にはさまざまな災害対応業務が集中するため、各避難所の状況や必要な物資まで十分に把握することが難しくなるという課題があります。
また、避難所対応を複数の部局にまたがって担当すると、責任の所在が曖昧になる可能性もあるとして、担当部署や人員配置を含め、災害対応体制そのものを見直していく考えが示されています。
このニュースを読みながら、避難所運営について改めて考えさせられました。
「誰が担当するか」を決めることは、とても重要
大規模な災害が発生すると、自治体には多くの業務が同時に発生します。
被害状況の把握、災害対策本部の運営、消防・警察など関係機関との調整、住民への情報発信、物資の確保など、その範囲は非常に広くなります。
当然ながら、避難所対応もその一つです。
しかし避難所では、開設したら終わりではありません。
避難者がどのくらいいるのか。
水や食料は足りているのか。
体調を崩している人はいないか。
施設に問題は起きていないか。
本部へ報告すべきことはないか。
時間の経過とともに状況は変化し、それに応じた対応が求められます。
だからこそ、
「避難所対応を誰が担うのか」
を平時から整理しておくことは、とても重要です。
今回報じられた三重県の検討も、そうした災害対応体制を改めて見直そうとする動きの一つと捉えることができます。
しかし、ここでもう一つ考えてみたいことがあります。
担当する人が決まれば、避難所は動くのか
仮に、避難所を担当する人が明確になったとします。
では、それだけで災害時の避難所は迷わず動き始めるでしょうか。
実際の現場では、
「最初に何を確認すればよいのか」
「施設のどこを確認するのか」
「誰が避難者の受入れ可否を判断するのか」
「避難者が集まってきたら、何から始めるのか」
「どの情報を、いつ本部へ報告するのか」
といった、さらに細かな判断が連続します。
しかも、災害は必ずしも経験豊富な職員がいるときに発生するとは限りません。
夜間かもしれません。
休日かもしれません。
いつも避難所を担当している職員が、その場所へ来られない可能性もあります。
避難所では自治体職員だけでなく、施設管理者や地域の方々など、多くの人が関わることもあります。
そこで重要になるのが、
「誰がやるのか」を決めることと同時に、「担当になった人がどう動くのか」を設計しておくこと
ではないでしょうか。
防災は「できる人」だけに頼らない
経験豊富な人がいれば、災害対応はもちろん心強くなります。
しかし、経験や個人の判断力だけに頼った仕組みには限界があります。
優秀な職員をすべての避難所に配置することはできませんし、災害時に想定どおりの人員がそろうとも限りません。
だからこそ必要なのは、
「できる人」を配置することだけではなく、「誰でもできる状態」をつくること。
そのためには、最終的な結果だけではなく、そこに至るまでの「過程」を整えておくことが重要だと私たちは考えています。
避難所を開設するのであれば、
安全を確認する。
必要な設備や資機材を確認する。
避難者を受け入れる準備をする。
状況を本部へ共有する。
こうした一つひとつの行動を積み重ねた先に、「避難所が開設できた」という結果があります。
つまり、災害対応を支えるのは、特定の誰かの経験だけではありません。
適切な行動を、一つずつ積み重ねられる仕組みそのものが、災害対応の結果を支えている。
そんな見方もできるかもしれません。
避難所DXは「情報をデジタルにすること」だけではない
近年、「防災DX」「避難所DX」という言葉を耳にする機会が増えました。
紙で管理していた情報をデジタル化する。
避難者情報をシステムで管理する。
タブレットやスマートフォンを使って情報共有する。
もちろん、これらも重要な取り組みです。
一方で私たちは、避難所DXにはもう一つの役割があると考えています。
それは、
災害時に複数の部署や職員、地域の方々が関わる中で、それぞれが「次に何をすべきか」を迷わず判断し、行動できる状態をつくることです。
単に紙を画面に置き換えるだけではありません。
情報を「見る」ためのデジタル化から、
人が「動く」ためのデジタル化へ。
避難所DXを考えるときには、そんな視点も必要なのではないでしょうか。
「役割」と「行動」の両方を考える
私たちが自治体の皆さまと避難所運営についてお話しする中でも、
「災害時の役割をもっと明確にしたい」
「マニュアルはあるが、実際に誰が何をするのか分かりにくい」
「担当経験の少ない職員でも動けるようにしたい」
といったお話を伺うことがあります。避難所運営では、
誰が責任を持つのかという「体制」と、
その人が何をするのかという「行動」
の両方を考える必要があります。
どちらか一方だけでは、実際の災害時に十分機能しない可能性があります。
今回の三重県のニュースは、避難所を「誰が担当するのか」という組織の問題について考えるきっかけを与えてくれました。
その先には、
「担当になった人が、迷わず動くためには何が必要なのか」
という、もう一つの問いがあるように思います。
誰が担当しても、動き出せる避難所へ
能美防災が提供する避難所開設・運営支援Webアプリ「N-HOPS」は、避難所開設・運営時に必要となる手順を、現場で分かりやすく確認できるようにする仕組みです。
現場では、次に実施する作業や確認事項を一つずつ確認しながら進めることができます。
また、各避難所の状況を自治体本部側から把握することで、現場と本部との情報共有も支援します。
現在、複数の自治体でトライアルを実施いただきながら、実際の避難所開設訓練などを通じて検証を進めています。
私たちが目指しているのは、単に避難所の情報をデジタル化することではありません。
経験豊富な誰かがいなければ動けない避難所ではなく、
誰が担当になっても、必要な行動を一つずつ積み重ね、動き出すことができる避難所。
避難所DXを考えることは、そのための「仕組み」や「過程」を考えることでもあるのではないでしょうか。
災害時に「誰がやるのか」を決める。
そして、その人が「どう動くのか」まで準備しておく。
その両方が整って初めて、災害対応の体制は実際の現場で機能するのだと思います。


