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「良い訓練ができた」で、終わらせないために

避難所の開設・運営訓練を、外部の専門事業者にお願いする自治体があります。

訓練の企画を考える。
シナリオをつくる。
参加者の役割を決める。
アクションカードを準備する。
当日の進行を行う。

こうした準備を自治体の職員だけで一から行うのは、かなり大変です。
専門の事業者にお願いすれば、これまでの経験やノウハウをもとに、訓練全体を設計してもらうことができます。
普段なかなか経験することのできない避難所運営を、実際に体験してみる。
その意味で、外部の専門家の力を借りることには、大きな価値があると思っています。

ただ、自治体の皆さまと避難所訓練についてお話ししていると、ときどき気になる言葉を耳にします。
「今回の訓練はとても良かった。でも、次回、この事業者さんがいなくても自分たちだけでできるだろうか」

良い訓練ができた。
それは、とても大切な成果です。
でも、避難所訓練については、そのもう一歩先まで考えてみてもよいのではないでしょうか。

今回は、そんなことを考えてみたいと思います。

訓練当日に「できる」ことと、その後も「できる」こと

専門家が進行する訓練では、参加者が迷ったときに、その場で補足してもらうことができます。

「次はこちらを確認してください」
「この場合はこちらの役割の人が動きます」
「ここでは、こう判断してください」

参加者にとっては、とても心強い存在です。
そして訓練が終われば、アクションカードやシナリオ、手順書などが手元に残ることもあります。

では、その資料があれば、次の年も同じように訓練できるでしょうか。
ここは少し分けて考える必要がありそうです。
専門家に支えてもらいながら、その日の訓練を最後まで実施できたこと。
そして、
その経験や成果物を使って、次は自治体や地域の皆さん自身で訓練できること。
似ているようですが、同じではありません。

そのような視点で考えてみると、避難所訓練の成果というのは、「その日にうまくできたか」だけでは測れないのかもしれません。

アクションカードを見れば、本当に動けるか

避難所訓練では、アクションカードが使われることがあります。
たとえば、

「受付を設置する」
「施設の安全を確認する」
「備蓄品を確認する」

といった形で、それぞれの担当者が何をすればよいのかを示します。
役割を分かりやすく整理するうえでは、とても便利な道具です。

でも、実際の避難所で動こうとすると、その先にもいくつもの問いがあります。

受付はどこに設置するのか。
必要な机や筆記用具はどこにあるのか
施設の安全確認はどこを、どの順番で行うのか。
異常があったときはどうするのか
何ができれば、その作業は終わったと言えるのか

つまり、
「何をするか」が分かることと、「実際にどうやって行うか」が分かることには、少し距離があります。

訓練当日は、経験のある進行役がそこを補ってくれるかもしれません。
でも、その人がいなくなり、初めて資料だけを見たときに、

「これ、どこでやるんだっけ」
「次はどうすればいいんだっけ」

ということが起きる。
そう考えると、アクションカードを作ること自体がゴールなのではなく、
それを初めて手にした人が、現場で本当に動けるか
まで確かめることが重要なのだと思います。

避難所は「いつものメンバー」で動くとは限らない

避難所運営が難しい理由の一つに、人が固定されていないことがあります。

自治体職員には異動があります。
自治会や自主防災組織の役員も交代します。
訓練に参加した人が、実際の災害時にその避難所へ来られるとも限りません。
夜間や休日に災害が起きれば、想定していたメンバーがそろわないことも考えられます。
もしかすると、その日初めて顔を合わせた人たちで、避難所を立ち上げることになるかもしれません。

これは、普段から同じメンバーで仕事をしている会社や組織とは少し違います。

だから避難所訓練では、
「訓練に参加した人ができるようになったか」
だけではなく、
「その人がいなくても、次の人が動ける状態が残ったか」
ということも考えておく必要があるのではないでしょうか。

訓練で見つかる「想定と現実の違い」

もう一つ、訓練にはとても大切な役割があります。
実際に動いてみることで、
事前に考えていたことと、現場の違いを見つけることです。

「ここにあると思っていた備品がなかった」
「この場所では受付がやりにくかった」
「この順番で作業すると、人の動線がぶつかった」
「学校側との役割分担が、想定していたものと違った」

こうしたことは、資料を机の上で眺めているだけでは、なかなか分かりません。
実際の施設で、人が動いてみるから気づくことができます。

私は、ここに訓練の大きな価値があると思っています。
訓練は、つくった手順が正しいことを確認する「答え合わせ」というよりも、
今考えている避難所運営の仕組みを「検査」する場
と考えてもよいのではないでしょうか。

「訓練をして終わり」にしない

もし訓練を検査の場と考えるなら、その後が重要になります。

まず、今ある手順で動いてみる。
すると、分からないところが見つかる。
現地と違うところが見つかる。
役割分担の曖昧なところが見つかる。
それを直す。
そして、次の訓練でもう一度確かめる。

つまり、

つくる

動かす

気づく

直す

また動かす

という循環です。

避難所ごとに建物も違えば、備品の場所も違います。
地域の体制も変わります。
学校の運用が変わることもあります。

そう考えれば、避難所の手順は「一度完成させれば終わり」というものではないのでしょう。
訓練を繰り返しながら、現場に合わせて少しずつ育てていくものなのだと思います。

訓練(避難所)への投資で、何を残すのか

外部の専門家にお願いして、質の高い訓練を実施する。
それ自体には価値があります。
ただ、自治体が限られた予算を使って訓練を実施するのであれば、その投資によって何が残ったのかまで考えてみてもよいように思います。

たとえば、
「今年、とても良い訓練ができた」
という成果。

さらに、
「訓練を経験した人たちが、避難所運営を理解できた」
という成果。

そしてもう一歩進んで、
「翌年は、自治体や地域の皆さん自身でも訓練を回せるようになった」
「訓練で見つけた課題が、次の手順へ反映された」
「担当者が変わっても、次の人が同じところから始められるようになった」
という状態まで残すことができたらどうでしょうか。

同じ一回の訓練でも、その意味はずいぶん変わってくるように思います。

人に経験を残す。そして、仕組みにも残す

訓練によって人が経験を積むことは、とても重要です。
一度経験したことがある人は、初めての人よりも現場をイメージしやすくなります。
でも、先ほど触れたように、その経験者が災害当日に必ずいるとは限りません。

だから私は、
訓練で得た経験を、人だけではなく「仕組み」にも残していくこと
が大切なのではないかと考えています。

訓練で、
「備蓄倉庫の鍵の場所が分かりにくかった」
と気づいたなら、その場所を次の人にも分かるようにする。

「この設備の操作方法が分からなかった」のであれば、写真や操作方法を残す。
「この順番では動きにくかった」のであれば、手順を変える。
「担当者が変わると分からなくなる」のであれば、個人名ではなく役割で整理しておく。

訓練で得た気づきを、次の人が使える形に変えていく。
そうすれば、人が入れ替わったとしても、またゼロから始めなくて済みます。

N-HOPSは、訓練で見つけたことを「次」に残す

能美防災が提供する避難所開設・運営支援Webアプリ「N-HOPS」も、この考え方を大切にしています。

N-HOPSでは、避難所で行う作業について、
「何をするのか」
だけではなく、

「どうやって行うのか」
「どこで行うのか」
「何を使うのか」
といった情報を、その避難所に合わせて整理していきます。

また、訓練時には、参加者が確認する行動ガイドだけでなく、訓練を仕切る側が使う進行シナリオも用意します。
目指しているのは、毎回外部の専門家がいなければ成立しない訓練ではありません。
自治体職員や地域の方々自身が進行役となり、同じ仕組みを使って繰り返し訓練できる状態です。

そして、訓練をしてみて、

「ここは分かりにくかった」
「保管場所が変わっていた」
「役割分担が実態と違った」
「この手順では動きにくかった」

ということが見つかれば、内容を見直していく。

最初から100点の手順をつくって終わるのではなく、
使って、確かめて、直しながら、その避難所で本当に動ける手順へ育てていく。
それがN-HOPSで実現したいことの一つです。

その訓練、来年も自分たちでできますか?

専門家による質の高い訓練には、大きな価値があります。
大切なのは、それで終わらせないことだと思います。

専門家がいなくなった次の年も、自分たちで訓練できるか。
訓練に参加した人が入れ替わっても、次の人が動けるか。
訓練で見つけたことが、その後の手順に残っているか。
そして、そこで積み重ねた経験が、実際の災害時にも使える状態になっているか。

訓練を、
「一度経験するイベント」から、地域の避難所運営を少しずつ強くしていく仕組みへ。

避難所訓練を考えるとき、「実践的な訓練だったか」と同じくらい、
「その成果は、次にもつながるだろうか」
という視点を持ってみてもよいのではないでしょうか。

そして、その先にはもう一つ、
人や時間が変わっても、必要な行動を同じように実行できるか。
という問いがあります。
私はこれを、避難所運営における「再現性」の問題だと考えています。

この「再現性」については、次回、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

淺野 智雄
淺野 智雄
能美防災株式会社 総合企画室 社内ベンチャーグループ長。防災士。 避難所開設・運営支援Webアプリ「N-HOPS」の企画・開発・展開を担当しています。 自治体職員や地域の関係者へのヒアリング、避難所訓練への参加などを通じて、実際の運用現場で生じる課題や迷いを捉え、「誰でも動ける避難所運営」を実現する仕組みづくりに取り組んでいます。 品質管理、中長期ビジョン策定、新規事業開発などの業務を経験。現場で起きている小さな課題や工夫を手がかりに、防災を「実際に機能する仕組み」にするための視点を発信しています。 趣味は料理・読書・筋トレ。朝の運動が日課です。